68:湖沼(墓)
光を反射する雲を追って湖のほとりに来てしまった。
雲は消散し、心臓の辺りを押さえて、湖面を見詰めている人が居る。
瞳が澄んでいて、顔面が蒼白だ。
「貧血…?大丈夫ですか」
「悪魔だから心臓が痛いのです」
「…人間に見えてますよ」
遊覧船に乗りにいく、というのでついていった。
小銭を払い、風に当たる。風が楽しい。
目線は遠くの船、白い鳥を届かない手紙のように思い、岸辺にまどろむ。
「心臓はー?」 「もう治った」
だがその人は若干不機嫌なのだった。
「この湖の涙腺が弱いのは、底に死体が埋まっているからです。死体は湧きつづける地下水のフィルターになっています。ここは私の…墓なのです。」
「…人が埋まっているんですか?」
「片目が潰れてしまったんです。この湖は…左目の方だと思います。埋め立てられた右目は高層ビル街の明かりになっているよ」
「ふぅん。ビルの方は盲目なんですか」
「そう」
この人が求めているのは、自然から取り出せるもの、あるいは取り出すと死んでしまう、というようなものなのではないか、と思った。
(夢日記,はてな夢日記)