色彩心理学入門-ニュートンとゲーテの流れを追って/大山正(中公新書1169)
1994年,中央公論社 刊
<色彩は、それらの光線が人や動物の目に入り、網膜中の神経を刺激して、それによって生じた神経興奮が大脳に到達したときにはじめて生じる>
色彩は、あくまで感覚であり、光線と色彩の関係は、空気の振動と音の関係に相当する。
□ニュートン、ゲーテ、2つの流れ
ニュートンの「光学」から約百年後(1810年)に、ゲーテの「色彩論」が出版された。
ニュートン(Issac Newton,1642-1727)
ゲーテ (Johann Wolfgang Goethe,1749-1832)
☆ニュートンからヤング、ヘルムホルツを経て現在のCIEのXYZ表色系で象徴されるような測色学にいたる流れ(色覚の生じる物理条件を中心としたもの)
<光線には色が付いていない。光線はあれこれの色の感覚を生じさせる力ないし傾向を持っているに過ぎない。(The Rays are not colord.)ニュートン…光線においてはあれこれの運動を感覚領に伝える傾向に過ぎない。>
・CIE(国際照明学会)のXYZ表色系…(ニュートンの試みの発展)
等色式上ににのみ存在し、実際にはありえないような色を基本刺激とした。
・CIE(国際照明学会)のRGB表色系(国際標準値)
R 700
G 546.1
B 435.8 ナノメートルの単色光
★ゲーテから始まり、へーリングを経て伝えられた現象学の流れ(色覚経験の内容を研究の対象とするもの)
<強く光に照らされた白い平面に目を向けると、目は幻惑される。そして、暫くの間は適度に照らされた対象を見分けることができない>ゲーテ
暗黒−休息と感受性 幻惑−緊張と無感覚
・へーリングの反対色説…<赤、緑、黄、青、白、黒、を原色と考え、赤−緑、黄−青、白−黒、を反対色とした。> 異化⇔同化 …異化=分解 同化=合成
古代ギリシャでは白と黒を原色と考えた。
レオナルド・ダ・ヴィンチは黄を原色に加えた。
□★面色、表面色、空間色(カッツと色の現象学)
・面色−空の色、スペクトルの色等、観察者からの距離が確定せず、硬い表面を持たない。幻想的。
(具体的な物体表面の色でも、衝立の小穴を通して見るとこの面色の見え方をする。)
暗い照明下で表面のテクスチュアが明らかでないとき。
近眼の人が眼鏡を取ったとき。
高速で回転する物体の色や残像の色。
TVの画面の色は、印刷物に比べると、面色的。
スクリーン投写はプリント写真に比べ面色的。
還元衝立(レダクション・スクリーン)
開口色(アパーチャー・カラー)
・全体野(ガンツフェルト)
視野全体が等しい色、等しい明るさになる事態。面色的。
高空を飛行するパイロットの視野。
一面の雪に覆われた雪原。
真暗闇。
・表面色(物体色)
距離感が確定的。視線に対して色々な傾きをとりうる。
凹凸がある。
明るさに恒常性があり、直射日光の下でも、薄暗い部屋でも、白いノートは白く、黒い石炭は黒い。
・ゲルプ効果
灰色紙が白に見えるほどのスポットライトを当てたところに白紙の小片を挿入することで、灰色を認識するようになる。
・空間色(ヴォリューム・カラー)
海の水を透かして見える海底、霧の背後の家、等。
・その他…透明面色、透明表面色、透明視、鏡映色
・光沢、光輝、灼熱=ハイライト、発光、溶解(発熱)
□色は波長だけでは決まらない
光の強度、純度が色相に関係している。色は波長だけでは決まらない。
・色の三属性 −色相、明度、彩度
・色の物理特性−波長、強度、純度
単色光は純度が最大であり、白色光は純度が最低である。
・ベツォルト-ブリュッケ現象
波長を一定にしたまま強度を変えると、色相が変わって見えることがある。
強度が低い(暗い)と、黄緑と青緑は緑味を増し、青紫と橙の光は赤みを増す。
強度が高い(明るい)と、橙と黄緑の光は黄味を強くし、青紫と青緑の光は青味を増す。
−暗いと赤と緑が、明るいと黄と青に見える領域が広がる。
・アブニイ効果
色相判断に及ぼす純度の効果。
純度が増すほど、知覚される色相が円周上で黄の方向にずれる傾向。
・色順応
見かけの彩度低下。緑が一番早く、赤、青がそれに次ぐ。
白熱灯の黄色味、蛍光灯の青味、サングラスを掛けたとき、外したとき。
同じ色を見続けていると、その色の鮮やかさが低下していく。
ある色に順応すると、白色が順応色の補色に見えてくる。
色順応に伴う白色点移動。
色の恒常性−白色成分
□色・見えの特徴
<赤、緑、青、の光の明るさの比率を様々に調節することによって、ほとんど全ての色が作りだせる。>(カラー・テレビ)
白黒テレビの同期を外すと、時間空間的パターンによって色が見える。(主観色−白や黒しかない所に色が見える)
・白色光下で赤くみえる物体は、赤色光下で最も明るく輝くが、緑色光下では緑に見え明るさを減じ、青色光下では青に見えるがさらに暗く見える。
・白色光下で青く見える物体は、赤色光下では暗い赤に、緑色光下ではそれより明るく緑になり、青色光下では最も明るくなる。
・青背景の上の灰色小片は黄に淡く色付き、赤背景の上の灰色小片は緑実味を示す。(補色)
・赤背景の上の黄は緑味(補色)を加え黄味を帯び、青は紫味を帯びる。
・青背景の上の緑は黄味(補色)を帯び、赤は赤味を増す。
・灰色紙に黄の縞、青の縞、をそれぞれ描くと、灰色がそれぞれの縞の色に近付いて見える。(色の同化)
・残像−目の中の現象。生理現象?(生理過程)
・記憶色−高次の認知過程の影響
・光覚閾−目で感じられる最低の光の強度
・暗順応では、目の感受性が1000倍以上にもなる。
・名所視では色の区別ができるが、暗所視では色の区別ができない。
・プルキンエ現象
明所視と暗所視における各色の明るさの差異。
夕暮れ時に昼間と比べて青や緑のものが赤よりも相対的に明るくなる現象。
□網膜・細胞
・外側膝状体
網膜から大脳皮質へ向かう中継点(反対色説型の神経反応)
三色節 −網膜の錐体段階
反対色説−網膜の水平細胞や外側膝状体の段階
・色覚の段階説(アダムズ)
三色説的な情報の処理から反対色説的な情報の変換への生理学的メカニズム?
・錐体とかん体
網膜中心部(錐体)
周辺部(かん体)
1つの網膜に存在する−錐体 約700万
かん体 約1億3000万 といわれる。
錐体視 …555ナノメートルの緑黄の光に対して最も鋭敏。
かん体視…510ナノメートルの緑に相当する光に対して最も鋭敏。
・夜行性の動物…コウモリは錐体が見出し難い。
・昼行性の動物…トカゲはかん体が少ない。
・盲斑(盲点)
神経節細胞の軸索がまとまって眼球から出るところ。
錐体もかん体も全く存在しない。
この部分に像が映っても、対象は全く見えない。
□動物の色覚
・ミツバチは赤と黒を区別できない。(赤が見えない)
赤、菫、紫、の区別、橙、黄、緑、の区別、がしにくい。
人の目には見えない菫(紫)外線(300〜400ナノメートル)が見える。
ミツバチにとっての補色の見え方は、人間とは異なる。
・モンシロチョウの雌の羽根には菫(紫)外線を反射する部分があり、雄の目が見逃さない。
・鯉は赤、黄、緑、を区別するが、赤に感じる錐体ないし色素の感度のピーク(人間は570〜590付近、鯉は610ナノメートル付近)が異なる。
・リスザル(新世界ザル)の色覚は人間の第一色弱に似ている。
(長波長領域で色の弁別が困難)
ツパイ(原猿亜目)の色覚は人間の第二色盲に相当する。
チンパンジーの色覚は人間ときわめて似ている。(チンパンジー・アイの色名判断)
□マンセル、オストワルト、色立体
・フェヒナーの法則、スティーブンスの法則
いずれの法則とも、低い光の間の強度差には鋭く、高い光の強度差には鈍く反応することになる。
・視感度曲線
黄で高く、赤と青で低い。(鮮やかな黄は明るく、鮮やかな赤と青の明るさが低い)
・マンセル色立体
垂直面に同色相が並ぶ。
水平面上の明度(ヴァリュー)がどの色相でも等しい。
中心の無彩色から外側に向かって彩度(クローマ)が上がる。
「マンセル・ブック・オブ・カラー」JIS日本工業規格
・オストワルト色立体
円の中心に対して相対する位置にある色相が補色関係にある。
完全色(full color…仮想の物体の光)が円周上(左右の端)に配置される。
色立体の垂直断面が菱形。
上端が、全ての波長の光を完全に反射する理想的な白(w)
下端が、全ての波長の光を全く反射しない理想的な黒(B)
欠点…水平面の明度が一定でない。
アイソ・トーン、アイソ・ティント、アイソ・クローム系列
「カラーハーモニーマニュアル」DINドイツ工業規格
□色と感情
暖色⇔寒色 進出色⇔後退色
・セマンティック・ディファレンシャル法(SD法)
暖色−危ない、騒がしい、派手な、嬉しい、不安定な,等 興奮的。
寒色−安全な、静かな、地味な、悲しい、等 平静、沈着的。
進出色−赤、橙、黄、等 長波長
後退色−青、菫、 等 短波長
明るい色は、暗い色より進出する。
・色収差−眼球内の物理的現象。
色収差は、色の進出、後退の直接の原因ではない。
長波長色の焦点距離は長く、(近い物を見る時)
短波長色の焦点距離は短い。
長波長のものほど進出する(目立つ)
・色と連想、象徴
白=清浄、赤=情熱、青=平静、黄=快活、黒=悲哀、etc…。
感情の共通性を媒介とした関係。
・色聴−音を聞くと色が見える人…共感覚の一種
ピアノの音(低音〜高音)
黒‐褐‐暗赤‐橙赤‐明赤‐青緑‐青‐灰‐銀灰色 etc…。
低い音−暗い色
高い音−明るい色 が一般的。
・好まれる色の順−青、赤、緑、菫、黄、(アイゼンク)
色の中には誰にでも好まれる色もあれば誰にもあまり好かれない色もある。
青は民族、年齢を越えて好まれる。
文化、宗教、思想、慣習、風土、個人の性格、等が影響する。
□出てくる人名
ニュートン「光学」、ゲーテ「色彩論」、ヤング(光の波動説、ヤング率、三色説)、ヘルムホルツ(三色説、感覚生理学)、へーリング(反対色説)、シュレーディンガー(量子力学の波動方程式)、フルブライト、グレアム、アリストテレス、デカルト「屈折光学」、ケプラー、マックスウェル(混色円板)、ドールトン(色覚異常)、オストワルト(ノーベル賞)、ラッド・フランクリン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、マンセル、アイザック・バロー、ロバート・フック、ラシュトン、パルマー、ベル(感覚神経/運動神経)、ヨハネス・ミュラー(特殊神経エネルギー説)、ケーニヒ、ハーヴィッチ、ジェームソン、スヴェティチン、御手洗玄洋、アダムズ(色覚の段階説)、フォン・グリース(二重視覚説)、シュルチェ、アウベルト、ボル、キューネ(視紅)、プルキンエ(プルキンエ現象)、フォン・フリッシュ(ミツバチの色覚)、キューン、ダウメル(ミツバチ菫)、ウォルド、ドレンデンブルグ、ドゥヴァロワ、ポルソン、古坂哲巌、木藤恒夫、ジェーコブズ、松沢哲郎、ライトとカミング(ハトの視覚)、フェヒナー(の法則)、スティーブンス(の法則)、ウェーバー(の法則)、ベルヌーイ、ラプラス、ヴント(心理学・色球)、エビングハウス(記憶の実験・色の二重ピラミッド)、グラスマン(の法則)、ギルド、ライト(第3色盲)、カッツ(モード・オブ・アピアランス/実験現象学派「色の世界」)、メッツガー(全体野)、ゲルプ(ゲルプ効果)、ケーラー(ゲシュタルト心理学)、シャア、ブリュッケ(フロイトの先生)、フロイト、ヘルソン、キルシュマン(の法則)、ベンハム(の独楽)、田中靖政、芳賀純、オズグッド、山村哲雄、南里礼子、安斎千鶴子、乾正雄、浜田誠、吉野賢也、アイゼンク、千々岩英彰、斉藤美穂 多…。
□専門用語
加法混色、減法混色、混色円盤、分光分布、分光反射率、光覚閾、明順応、暗順応、同調、三色説、神経生理学、反対色説、盲斑(盲点)、CIE(国際照明委員会)、スカラー量、色円、輝線、誘導領域、検査領域、陽性残像、陰性残像、カラーTVの原理、色覚検査用アノマロスコープ、生理心理学、日本工業規格(JIS)、フェヒナー色、全体野(ガンツフェルト)、網膜照度(トロランド)、ベツォルト-ブリュッケ現象、アブ二イ効果、セマンティック・ディファレンシャル法(SD法)、光滲、etc…。
□感想
本当にためになっているのにあまり覚えていないかも知れない。
自分が分かり易いようにメモってあるので、順番がバラバラです。
興味のある方には一読をお勧めします。
色彩心理学入門―ニュートンとゲーテの流れを追って (中公新書)
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