57:柔らかな髪

mimic-yk2007-08-26

 打ち放しの灰色の公団住宅の1階に、トンネルのように通り抜けられる薄暗い通路がある。
 そこから眺める外の風景が、切り取ったように白く、透明で、眩しい。
 蝉の鳴声になってしまったかのような木々が、住宅の周りで僅かにそよいでいるのが感じられるのを、不思議に思う。
 通り抜けようとして、外から覗く人影に、見覚えがあった。
 それは、Hさんのようだった。
 髪は柔らかく風に揺れ、手に持ったナイフだけが光を反射するシルエット―。


 彼女は、少女のよう…相変わらず小学生料金で展覧会に入っているな。でも、体重は、それ位なのだ、…と思い出す。


 私は彼女にナイフを持たせ、建物の中をうかがっている姿を逆光で写真に撮り、現像したかったのだ。
 彼女の髪に花を挿し、どこか自然の多いところで、携帯に写真を入れたい、とも思っていた。


 どちらが彼女にとって嬉しいのかよく分からず、それから面倒くさくなって撮るのをやめた写真。上手く撮れるのかどうかもよく分からなかった。
 …いや、写真は、ある。何年も前の写真が、ある。


 ―状況は、悪い。


 彼女は、私があげた8錐星模様の刻み込まれた華奢なガラスのコップを不注意で割ってしまったし、私は彼女に貰った淡いオレンジ色の貝ビーズのブレスレットをどこかに失くしてしまっている。
 どちらも似ている、と思ったものだ。


 私の実家の地面がコバルトで青く変色し、それが農薬による汚染なのだと決め付けたところへ彼女が現れ、自然発火して燃え始めたのは、それからずっと後だった。焼け焦げることもなくオレンジ色の炎がフラッシュして燃え続け、彼女はやはり綺麗だったが、鬼のように苦しみながらゾンビになって歩き、何も聞こえないようだった。


 火が移ったら黒焦げの死体になってしまう私は彼女を見捨てて逃げ、2人がその後どうなったのかは良く分からない。
 google:image:炎
 (夢日記,はてな夢日記)