25:船

mimic-yk2006-09-21

 夏休み中に学校に出てきて、何かの研究をやっている。
 生徒は数人で、先生もいるが、それぞれ別のことをしている。
 先生が、近所の喫茶店でお茶しよう、と言い出し、皆で行く。
 きっと奢ってくれるぞ、と、わくわくしながらついて行く。
 喫茶店は、アンティークの家具に花柄のカーテン、ウエッジウッドの食器にアールヌーヴォーのランプ等でコテコテだったが、居心地は悪くなかった。特に、ソファの座り心地が良い。
 先生はここの常連らしく、店に馴染んでいる。甘いものが好きでお酒が飲めない先生が、コーヒー、紅茶、ケーキ等を頼む。
 見たことのない黄色いケーキが出てきた。スポンジがクッキーやクリームのような味で、ウイーンの壁、という名前らしい。とても美味しかった。
 だが、外は曇り空で、風が激しくなり始めている。台風が来るらしい。
 ふと、先生の工作で、この辺一帯が、船になって浮かんでいるのでは…と思った。
 お酒は飲んでいないのだけど。

 学校に戻ると、屋上で右翼の人が旗を揚げようとしていた。
 旗は、校舎を覆うほど大きい。いよいよ風が強くなってきて、それなのに天気は良くなり、雲が物凄い速さで流れて行く。眩しい。船に乗って移動しているみたいだ。
 右翼の人は、風になびく旗に巻き込まれて、屋上から落ちてしまった。
 どこからやって来たのか、誰も知らなかった。

 船に帆を揚げようとしたのだ、と私は思ったが、黙っていた。
 船は幻想だったが、多かれ少なかれ皆が思っていたことだった。
「人が死んでしまった」
 先生は下で死人を発見し、愕然としていた。
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