66:添花
11月の午後。駅のホームで発車待ちの電車。車窓に射し込む日差しの傾きが物悲しい。
車内はヒーターが効いて暖かい。私は窓際に寄り掛かる。車内に空席は無く、若干混んでいる。
側のシートに座っている女の人に、目が止まった。
トレンチコートにロングソバージュ、黒い皮手袋、帽子(ハット)。
彼女の装いは少し、メンズライクだった。
ロングスカートやパンプスはあまり目立たず、帽子の下の唇がミステリアスだ。
長身で華奢な彼女を、この車両の中で唯一の品の良い人間、と私は思った。
彼女に薔薇か百合を持たせたくなって、私は揺れた。
散りばめられたカスミ草のような、不安定な気分になった。
電車はいつの間にか走り出している。
彼女の顔はよく見えない。後をつけてしまいそうだったが、次の駅で降りる彼女を見送った。
どこか現実離れした彼女は、私の思った通りに、優雅にふわふわと歩き、雑踏の中に消えていった。
「人間でなければいいのになぁ…。」
それから、気が付くと雑踏の中に、彼女を探してしまう。
決して目立ってはいなかった。
彼女にはどんな花も似合うと、私は思っている。
(夢日記,はてな夢日記)