63:Yの携帯
鏡張りのデパート、不釣り合いなアド・バルーン、遠近感のおかしな街。
ホテルのロビーでくつろぐ女の人の眼球に血走っている葉脈のフロッタージュ。
服の上にガウンを着込み、まどろみながら紅茶を飲んでいるが、人間でない。
厚く雲が垂れ込めた街を、知人めいた2人と一緒に歩く。私たちの服装は、ダークだ。
「しまクロ」という洋品店を見付けて物色し、当たりだと思って私は灰色と薄紫色のカーゴパンツを1本ずつ購入する。
kはモス・グリーンのカーディガンを広げてつまらなそうに眺めている。多分、買わない。
Yは黒のところで足が止まっている。
私は青を、kは黄色を、Yは赤を買うのを止めた。
私達は店を出た。
この街のどこかに、蝋の涙を流す女神の像があると、kが教えてくれる。女神は鳩の糞公害に遭っているに違いない。近くに噴水池がある。
ふと見ると、帽子の似合うYに、髪がない。
眉間にしわを寄せていて、まぶたの上に傷がある。
Yは、何か考えている。
酒を飲ませて喋らせようか…。
「Y、髪を売った?」
すかさずkが私に小声で耳打ちする。
「売ったんじゃないっ!抜けたんだっ!」
私はアイラインを黒く隈取り眉毛を抜こうかと考えるが、気持ち悪いのでやめることにする。
kの腕時計がかわいいな、と思う。
小さな円い文字盤が藍色で、ベルトが革紐で出来ている。
どうしてこんなに似合うのだろう。自分で買っているのに、彼女からのプレゼントみたいに見える。
携帯が止まったので買ってみたのだと、kは言う。
「連絡が付かなくなるよ」
Yが重い口を開いた。
Yは携帯にデータをつめ込んでいるらしい。
私とkは、Yの携帯が見たくなった。
(夢日記,はてな夢日記)